日本人は権威に対して無批判過ぎではないか
昨年一年は原発事故のことばかりを書いていて、その他のテーマではほとんど記事を書かなかった。原発事故が収まったわけではないが、海外にいて毎日毎日原発事故の情報を追っていることが非現実的になって来たので、今日は前から気になっていた別のテーマについて書いてみたい。
日本は自分の祖国であるけれど、長年の海外暮らしのせいで、どうにも理解できないことや不思議なことがいろいろある。その中で特に私が気にしていることは、日本人の薬に対する考え方である。おかしい思うようになったきっかけは、2002年から数年間、家族で日本に住んだときの経験だった。
幼児の手の障害
風邪などの症状で医者へ行ったときに出される薬が尋常でないほど多いのである。尋常でない、と私が感じるのは、ドイツでは風邪をひいて医者へ行ってもほとんど薬は処方されないということから来ている。熱があったり咳があったりして診察を受けると、「風邪ですね。ゆっくり休んで下さい」と言って、仕事を休むために一筆書いてくれるだけのことが多く、症状の辛さを訴えても、「熱はむやみに下げない方がいいけれど、そんなに辛いなら解熱剤でも出しましょうか」とか「ハーブの咳止めシロップを出しておきますね」と言われるくらいが関の山で、抗生剤や抗ウィルス剤を投与されることはほとんどない。「風邪を治す薬はない」「風邪はウィルスによるものだから、抗生剤は無意味だ」というのがドイツの医者の一般� ��な認識で、重症でなければ休んで治せという考え方である。
乳児の脚の震え
毎年冬になると、日本のインフルエンザ流行のニュースを聞いて驚いてしまう。インフルエンザはドイツでも流行するが、新型でなければ特にニュースになることはない。学校が学級閉鎖になったという話も聞かない。冬になると職場や学校を欠席する人が増えるというだけのことで、あまり話題にはならない。もっとも、インフルエンザは重症化すれば命を落とすこともある病気だから軽視するべきではなく、注意して予防した方が良いのだろうと思う。それにしてもどうして日本ではこれほどまでにインフルエンザが蔓延するのだろうかとずっと不思議に思って来た。今年は例年になく感染者が多いそうで、もしかしたら放射能の影響で抵抗力が落ちているのではと懸念したが、必ずしも線量の高い県で多発しているわけではない� ��うなので、放射能のせいと決めつけるのにも無理があるだろう。一体どうしたのだろうか。
ふと思ったのは、日本では抗生剤や抗ウィルス剤が多用されるので、人の体がそれに慣れて抵抗力が落ちてしまい、風邪やインフルエンザにかかりやすくなるのではないだろうかということ。そしてまた、薬の多用により耐性菌や耐性ウィルスが増えているのではないか。
そう考えて調べてみたところ、以下のような報告が見つかった。
欧米の常識から日本を再考する 亀田総合病院感染症内科部長 岩田 健太郎]
胃の左側の痛みや吐き気を感じる
報告はインフルエンザについてではないが、驚くべき事実が提示されている。肺炎球菌の場合、エリスロマ イシンに耐性を持つ菌の割合は国によって大きな違いがあるようである。アメリカ合衆国で29.4%、ドイツで9.5%、そして日本では77.9%だというのである。そしてこれは、それぞれの国の医療文化の違いに基づくものとされる。これを読み、正直恐ろしくなった。医療制度の違いによるところも大きいだろうが、患者側の医者に対する態度も大いに関わっているようだ。
もう一つ、私が非常に懸念しているのは、向精神薬の処方についてである。
一昨年前に私が突発性難聴にかかったとき、情報を求めてインターネット上の日本語の掲示板に辿り着いたときから懸念が始まった。突発性難聴はいまだ確立した治療法のない病気で、命にかかわるものではないものの、その症状は程度が酷い場合には非常に苦痛である。しかも、症状を緩和する薬が存在しないため、長引くと精神的に参ってしまう病気だ。辿り着いた掲示板で情報交換をしている人達の多くは、心療内科などで抗不安薬(精神安定剤)や睡眠薬、抗うつ剤などを処方してもらって凌いでいるという話だった。私自身も当時は非常に苦痛が大きかったので、精神安定剤などで楽になれるのならばと医者に相談に行った。
しかし、ドイツの医者は内科医でも耳鼻科医でも精神科医でも、みな口を揃えて「精神安定剤はいけない」と言う。依存性が高く、緊急時に短期間の投与ならばともかく、定期的に服用したり長期に渡って飲み続けることは非常に危険だと言う。精神的に辛い症状があるときには心理セラピストのセラピーやカウンセリングを受けるのが良いという意見でどの医者も一致していた。それまで向精神薬や心理セラピーなどは自分には無縁のものと思い、無知だったが、それをきっかけにいろいろと調べてみたところ、日本では世界でも類を見ないほど大量の向精神薬が処方されており、副作用や依存の危険についての認知度が低く、医者に処方された向精神薬を飲み続けて薬漬けになったまま脱却できずに苦しむ人が多くいるという現実� ��浮かび上がって来た。ここでは敢えてリンクしないが、この問題について報告する動画がYouTube上にも多くあるので、日本国内でも問題視され始めてはいるのだろう。
抗生剤や抗ウィルス剤にしろ、向精神薬にしろ、安易に大量の薬が処方されてしまう背景には日本独特の医療制度の存在があるのだろう。病院や診療所の経営のためには薬を出すしかないという医師側の事情があるのかもしれないし、製薬会社にも大きな問題があるに違いないと思う。そのような不備は改められてしかるべきだ。
しかし、それだけでもない。原発問題も薬の問題も根は一緒である。日本人は権威に対して従順すぎるのではないか。「原子力の専門家がそう言うのだから、原発は安全だ」「お医者さんが出した薬なのだから、安心だ」。そのような無批判な態度をこのまま続けて行ったら、どういうことになるだろうか。
放射能は拡散し、耐性菌や耐性ウィルスは蔓延し、国民の健康や生活がどんどん脅かされて行く。そう考えると非常に暗澹たる気持ちになってしまう。私達は物事に対し、もっと批判的な目を向け、自らの心の声に従って行動していくべきではないのだろうか。
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