2012年5月12日土曜日

メルクマニュアル家庭版, 153 章 栄養不良


栄養不良とは、カロリーあるいは必須栄養素が不足している状態です。

普通は、栄養不良とは主にカロリーの不足(全般的な食物摂取不足)またはタンパク質の不足を指しています。ビタミンとミネラルの不足は別の疾患とみなされますが、カロリーが不足すると、ビタミンとミネラルも不足します。

先進国では、栄養不良は栄養過剰(カロリーの過剰摂取や、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラル、サプリメントなど特定の栄養素の過剰摂取)ほど多くはみられません。それでも、ホームレスなど非常に貧しい人や精神疾患がある人に栄養不良は起こります。また、病気が非常に重く、食欲がなくなって食事が摂れない場合や、体が必要とする栄養の量が大幅に増加する場合があります。

栄養不良は高齢者にも起こります。自宅で暮らす高齢者のおよそ7人に1人は、1日に1000kcal以下しか摂取しないというデータがあります。これは、適切な栄養摂取に十分とはいえない量です。病院や長期療養施設に入院している高齢者の約半数が、十分なカロリーを摂取していません。カロリー不足は開発途上国に住む子供たちの死因のトップとなっています。


排卵の原因の痛みはない

重度のカロリー不足は栄養失調を引き起こします。栄養失調は多くの開発途上国でよくみられます。乳幼児に生じがちで、普通はやせて脱水状態になります。母乳を与えれば、たいていは栄養失調を予防できます。タンパク質の極度の不足は、クワシオルコルと呼ばれる疾患を引き起こします。クワシオルコルは栄養失調ほど多くはみられません。この言葉は、「最初の子と2番目の子」という意味のアフリカの言葉からきています。2人目の子供が生まれると最初の子供は母乳を2人目に取られるので、クワシオルコルになりやすくなるからです。クワシオルコルは離乳後の子供に発症する傾向があるため、クワシオルコルになる子供は普通は栄養失調の子供より年長です。クワシオルコルは、主食や離乳食が炭水化物中心で、カ� ��リーとしては十分でもタンパク質が不足する地域に比較的多くみられます。こうした食物の例としては、ヤムイモ、キャッサバ(タピオカの原料)、米、サツマイモ、まだ青いバナナがあります。しかし、炭水化物中心の食事をしていれば、だれでもクワシオルコルになる可能性があります。クワシオルコルになると体に水分がたまりやすく、むくみや浮腫がみられます。

カロリーとタンパク質の両方が不足すると、栄養失調性クワシオルコルと呼ばれる疾患になります。

これは、必須栄養素の一部あるいは全部の欠乏が長期間続いたときに起こります。

原因

栄養不良は、食物を入手できない、栄養素の摂取、代謝、吸収を妨げる障害がある、カロリーの必要量が大幅に増えるなどが原因で生じます。

特定の薬が原因で栄養不良が起こることもあります。多くの薬は食欲を減退させます。吐き気を引き起こす薬もあり、それによって食欲が減退します。また、チロキシンやテオフィリンなど代謝を増加させる薬もあれば、コレスチラミンなど腸での栄養素の吸収を妨害し、吸収不良を引き起こす薬もあります。さらに、抗不安薬や抗精神病薬などの薬やアルコールは、使用を中止すると体重が減少することがあります。


水の8オンス日のコントロールにきびを飲んでいます。

高齢者の栄養不良には、さまざまな要因が複合的に作用しています。高齢者は小食になる傾向があります。1人で食事をする人は、料理を作って食べる意欲を失いがちになります。足腰が弱って体に障害が出てくると、買いものに出かけたり料理をしたりすることが難しくなります。また、高齢になると体内の化学的な変化が起こって食欲が衰え、満腹感が促されるため、少し食べるとすぐ満腹になるようです。嗅覚や味覚が低下することも、食べることの楽しみを減らします。さらに、年齢とともに、栄養素を吸収する能力も減少します。

高齢者によくみられる病気の多くが、栄養不良の一因になります。脳卒中やふるえ(振戦)があると、ものをかんだり飲みこんだりする力が衰え、料理などをするのも難しくなります。パーキンソン病のようにふるえが続くと、体がカロリーを消費する速度(代謝率)が増加して体重が減少します。合わない入れ歯や歯ぐきの病気など歯に関連した異常がある場合も、ものをかむと痛みが生じたりして食事ができなくなります。吸収不良の疾患、癌(食欲を減退させる一方で体が必要とするカロリーを増加させる)、うつ状態(食欲を減退させる)は高齢者に多くみられます。痴呆症の場合は、食べるのを忘れてしまうことが原因で体重が減少することがあります。痴呆が進むと、自分でものを食べられなくなり、食べさせよう� ��すると抵抗する人もいます。高齢者はまた、体重減少につながるさまざまな薬を服用しています。

症状

カロリー不足の最も明らかな徴候は、体脂肪(脂肪組織)の減少です。カロリー摂取が十分でないと、体は自分自身の組織を分解し、それをカロリーに使用します。家具を燃やして家を暖めるのに似ています。脂肪の減少は、初めは顔に顕著に現れます。ほおがこけ、目がくぼんでみえます。


にきび総合的な治療

カロリー不足が激しいと、成人では体重が半分にまで落ちることもあり、子供ではさらに大幅に落ちてしまいます。骨が出っ張り、皮膚は薄くなって乾燥し、弾力がなくなって青白く冷たくなります。髪の毛は乾燥し薄くなり、簡単に抜け落ちてしまいます。この衰弱の原因が何らかの疾患である場合には、悪液質と呼ばれます。

その他の症状としては、疲労、冷え、下痢、食欲減退、過敏、無感情などがあり、ときに無反応(昏迷[こんめい])に至ることもあります。激しい栄養不良の子供は、身体能力の発達が著しく遅れ、精神遅滞が起こります。特定の種類の白血球数が減少しますが、これはエイズの患者に起こるものと似ています。その結果、免疫系が弱まり、感染の危険性が高まります。カロリー不足が長期間にわたって続くと、心不全や呼吸器不全が生じます。何も食べない飢餓状態が続くと、8〜12週間で死に至ります。

診断と治療

栄養不良は見た目で診断できます。血液検査を行って、タンパク質を十分に摂取していないと減少するアルブミン値を測定します。身体検査、X線検査、血液検査などを行って、栄養不良の影響を調べます。

大半のケースで、摂取するカロリー量を徐々に増やして治療します。栄養のある食事を少量ずつ何回かに分けて食べるのが最も良い方法です。飢餓状態だった人に食べさせるときには、十分な注意が必要です。

栄養補給方法: 栄養を口から摂取できない場合があります。そのような場合には、消化管や静脈に挿入したチューブを通して栄養素を与えます。


チューブによる栄養補給は、消化管は正常に機能しているものの、十分な量を口から食べることができない人(重度のやけどを負った人など)や、ものを飲みこめない人(脳卒中を起こした人など)に使います。細いプラスチック製のチューブ(経鼻胃管)を鼻から入れ、のどを通して胃または小腸まで挿入します。長期間にわたってチューブによる栄養補給が必要な場合には、腹部を小さく切開し、胃または小腸へチューブを直接挿入します。

チューブによる経腸的栄養補給では、必要な栄養素をすべて補給します。専用の栄養液もありますが、固形物をミキサーにかけ、経鼻胃管を通して与えることもできます。こうした流動食は、ゆっくりと継続的に与える場合もあれば、まとまった量を数時間ごとに与える場合もあります。

チューブによる栄養補給はさまざまな問題を引き起こし、生命を脅かすこともあります。高齢者で最も多いトラブルは、肺に食べものを吸いこんでしまうことによる肺炎です。この問題は、ベッドの頭の部分を高くして食べものが逆流するのを防止し、少しずつゆっくり与えることで防ぐことができます。下痢や腹部の不快を訴える人もいます。水分を与えすぎたり、栄養がアンバランスになる問題は、必要な水分量を正しく計算し、ミネラル(電解質)と尿素の血中濃度を測ることで減らすことができます。

点滴による栄養補給は、吸収不良の疾患などのため消化管が適切に栄養素を吸収できない場合や、潰瘍性大腸炎、重度の膵炎などのため、一時的に食べものを胃腸に入れてはいけない場合に使います。点滴による栄養補給は、必要量の一部を補給する部分的静脈栄養の場合もあれば、全部を補給する完全静脈栄養の場合もあります。完全静脈栄養には太い点滴チューブ(カテーテル)が必要で、鎖骨の下にある鎖骨下静脈など太い静脈に挿入します。


点滴による栄養補給は、カテーテルを長期間にわたって挿入したままであり、それを通して送りこまれる溶液には細菌が繁殖しやすいブドウ糖が多量に含まれているので、常に感染症を起こす危険があります。完全静脈栄養を行っている間は、体重や尿量の変化に加えて、感染症の徴候も綿密に監視する必要があります。

重度の栄養不良の場合には、遺伝子組み換え型の成長ホルモン、メドロキシプロゲステロン(避妊薬として使用されるプロゲスチン)、ドロナビノール(吐き気の治療薬)などを投与して、体重増加を促進することもあります。



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