六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
先日ある方からご質問を頂きました。
(その方の特定を避ける観点から、
実際のご質問内容を、
少し変えて記載することをお断りしておきます)
お子さんの尿の検査で、
1リットル当たり0.08ベクレルの放射性セシウム137が検出されたのだけれど、
その数値の意味合いを、
どう考えれば良いのか分からない、
と言うのです。
尿中のセシウムの測定は、
多くの検査機関で行なわれています。
特に例のチェルノブイリ膀胱炎の話があってからは、
あの元になった文献では、
尿中のセシウムの濃度で、
その汚染の程度を分類しているので、
それと比較しての議論が多く行なわれるようになりました。
ただ、概ねその議論は大雑把で、
あまり建設的なものではありません。
今日は僕なりに、
尿中のセシウム濃度の測定から、
何が分かるのか、
ということを、
なるべく実証的に考えてみたいと思います。
尿中のセシウムの測定値から、
実際に身体にどれだけの量のセシウムが存在しているのか、
推測することが可能でしょうか?
この点については、
僕もより数段賢い方が、
詳細に検討されていますので、
僕が今更何かを言うような必要はないのですが、
かなり複雑な話になっているので、
なるべくプラクティカルに、
単純化して話をしたいと思います。
甲状腺は何をするのでしょうか?
このことを考えるには、
体内に取り込まれたセシウムのうち、
どの程度の部分が尿中に排泄されるのか、
という点を考える必要があります。
セシウムはカリウムと、
体内ではほぼ同一の動態を取ると考えられます。
セシウムは本来は身体に存在する元素ではなく、
それに特化した吸収や排泄の仕組みが、
身体にあるとは考え難いので、
概ねその挙動はカリウムに置換して考えて、
問題はないものと思われます。
ただ、カリウムは細胞壁にあるカリウムチャネルという出入り口や、
カリウムポンプという汲み出し汲み入れのシステムによって、
その調整が図られていますが、
そのチャネルやポンプの出入りの仕方に、
若干の違いの違いがある、
というデータが幾つか存在し、
概ねカリウムより細胞内から細胞外への汲み出しの力は弱い、
という結論になっています。
つまり、カリウムよりセシウムの方が、
細胞内には蓄積し易い、
という所見です。
しかし、現行分かっているデータの範囲では、
その点にも左程大きな違いはないと考えて、
大きな問題はないと思います。
それではまずカリウムの体内の動態から、
考えてみましょう。
こちらをご覧下さい。
この図はカリウムの体内の収支を見たものです。
食事から身体に入ったカリウムは、
体内のカリウムプールに入り、
そこから一部は便に、
一部は汗から、
そして一部は腎臓から尿となって排泄されます。
脳のどの部分が髄質でのコントロールを持っています
ここで、
体内の全体のカリウム量が3500mEqで、
尿からの排泄が35~90mEqですから、
概ね体内のカリウム量の、
1~2.6%程度が、
尿中に出ていることになります。
この比率がセシウムでも同等と仮定すると、
尿中のセシウム量の、
38~100倍程度のセシウムが、
体内には存在する、
ということになります。
勿論これは一定の定常状態に、
達している場合の話です。
これは正しい推定でしょうか?
次をご覧下さい。
これは放射線医学総合研究所のサイトにある、
経口摂取による内部被曝の際の、
セシウム137の尿中排泄割合を見たグラフです。
ある一定量のセシウム137が口から身体に入ると、
その後24時間では、
その100分の1より少し多い量が、
尿から排泄されることが分かります。
これはそのオーダーとしては、
先刻の推測と、
そう違う数値ではないと思えます。
つまり、最初の推測は、
そう外れてはいないのです。
では次をご覧下さい。
こちらは同様に経口摂取の場合の、
便への排泄割合を見たものです。
被曝後24時間の便中排泄は、
尿中の排泄量より、
桁が1つ下であることが分かります。
つまり、意外に便からは排泄されていません。
これも最初のカリウムの動態図を見て頂くと、
尿中排泄の1~2割くらいしか、
便中には排泄されていないことが分かります。
頭の上にtigtnessと痛み
これもこの排泄パターンに、
概ね一致しています。
1つ興味深いことは、
便中の排泄量とほぼ同量が、
汗から排泄されるということです。
上記のセシウムの排泄曲線は、
あくまで1回きりの被曝を受けた想定の元に、
その後の排泄の経過を見たものです。
従って、臨界事故のようなケースでは、
その通りに計算すれば良いのですが、
現状のような低線量の被曝が、
ある程度の期間続いていると想定されるような場合には、
そのままでは活用は出来ません。
それで、持続的に低線量の被曝を受け、
ある種のプラトーの状態に達した場合を想定して、
計算したようなグラフも存在します。
ただ、体内のその時点での放射線量と、
尿中排泄量とは、
ある幅の中に存在していることは確かであり、
それが低線量の被曝である限りは、
持続的でプラトーに達していようが、
一度だけ被曝したものであろうが、
その時の尿中排泄の比率にはそれほどの違いはなく、
もっとラフに考えても、
良いのではないかと僕は思います。
ここで最初のご質問に戻りますと、
仮にそのお子さんの1日の尿量が1リットルとすると、
その時点での体内のセシウム137の総量は、
概ね3~8ベクレル程度ではないか、
というような推測は可能となるのです。
本来1日の排泄量がこうした場合には重要なので、
尿中の放射性物質を測る方は、
出来れば24時間分を全て貯め、
それをよく攪拌して、
その一部を提出することをお勧めします。
スポットの尿の濃度を測定しても、
正直なところあまり意味があるとは思えません。
仮にある時点で非汚染地域に転居し、
食事からのセシウムもゼロにすることとすれば、
その後の経過は上記の排泄曲線通りに、
推移すると考えて良い訳です。
従って、状況が変われば、
経時的に尿中のセシウムを測定することには、
一定の意味はあります。
ただ、今回のような低線量の被曝の影響を、
尿中のセシウムの測定のみから判断することは、
実際には非常に困難で、
大雑把な1つの指標程度に、
考えておいた方が良いのではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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