2012年4月10日火曜日

はじめに: 慢性閉塞性肺疾患(COPD): メルクマニュアル18版 日本語版


Robert A. Wise, MD

慢性閉塞性肺疾患は,一部可逆的な気流閉塞で,毒素(しばしば,タバコの煙)に対する異常な炎症性反応が原因となる。非喫煙者においては,多くはないがα1アンチトリプシン欠損症,および様々な職業性暴露も原因となる。症状は湿性咳および呼吸困難で,数年かけて現れる;一般的な徴候は呼吸音の減少および喘鳴である。重症例では体重減少,気胸,右室不全,呼吸不全などを合併する。診断は病歴,身体診察,胸部X線,および肺機能検査に基づく。治療は気管支拡張薬,コルチコステロイド,また必要な場合にはO2を投与する。約50%の患者が最初に診断されてから10年以内に死亡する。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,慢性閉塞性気管支炎と肺気腫から成る。患者の多くは両方の特徴をもつ。

慢性閉塞性気管支炎 は,気流閉塞を伴った慢性の気管支炎である。慢性気管支炎(慢性粘液分泌亢進症候群とも呼ばれる)は,連続2年の間に湿性咳が少なくとも3カ月間認められた場合と定義される。慢性気管支炎は,肺活量測定により気流閉塞があることが判明すれば,慢性閉塞性気管支炎となる。慢性喘息性気管支炎は,類似した重複する病態で,喘息の病歴のある喫煙者における慢性の湿性咳,喘鳴,一部可逆的な気流閉塞によって特徴づけられる。一部の症例では,慢性閉塞性気管支炎と喘息性気管支炎の区別は不明瞭である。

肺気腫は,肺実質の破壊で,弾性収縮力の喪失,肺胞中隔の喪失および放射線状の気道牽引を招き,そのため気道虚脱の傾向が強まる。肺の過膨張,気流制限,エアトラッピングが続いて起こる。気腔が拡大し,やがてブラが出現することもある。

疫学

米国の2000年のCOPD罹患者は推定で2400万人であるが,そのうち診断されたのは1000万人にすぎない。同年,COPDは死亡原因の第4位であり,死亡者数は119,054人であった―比較として1980年の死亡者数は52,193人であった。1980年から2000年の間に,COPDの死亡率は64%上昇した(40.7/100,000から66.9/100,000へ)。

有病率,発生率,死亡率は年齢が高くなるとともに上昇する。有病率は男性が高いが,全死亡率は,男性も女性も同じようである。発生率と死亡率は一般に白人,ブルーカラー労働者,学校教育の年数が短い人で高いが,おそらくこれらの集団の喫煙率が高いためであろう。COPDは,α1アンチトリプシン(α1アンチプロテアーゼ阻害物質)欠損症とは関係がない場合でも,家族集積性があるようである(慢性閉塞性肺疾患(COPD): α1アンチトリプシン欠損症を参照 )。

COPDは,非工業国における喫煙の増加,感染症による死亡の減少,バイオマス燃料の広範囲の利用により,世界的に増加しつつある。COPDが原因で2000年には世界で推定274万人が死亡しており,2020年までには世界の5大疾病原因の1つになると予測されている。

病因と病態生理

喫煙が,ほとんどの国において第一の危険因子であるが,喫煙者の約15%しか臨床的に明らかなCOPDを発症しない;40pack-years(1日1箱40年を基準)またはそれ以上の暴露歴は,特に発症を予測させる。バイオマス燃料を室内での調理や暖房に燃やして出る煙は,発展途上国では重要な寄与要因である。既に気道反応性(メタコリン吸入に対する感受性亢進により定義される)のある喫煙者は,臨床的な喘息がなくても,COPDを発症するリスクは,反応性がない人より大きい。低体重,小児期の呼吸器疾患,受動喫煙による暴露,大気汚染および職業性塵(例,鉱物塵または綿塵)または化学物質(例,カドミウム)への暴露は,COPDのリスクを高めるが,喫煙に比べれば重要性は低い。

遺伝的要素も寄与する。最も明確な遺伝的障害は,α1アンチトリプシン欠損症で(慢性閉塞性肺疾患(COPD): α1アンチトリプシン欠損症を参照 ),非喫煙者では肺気腫の重要な原因であり,喫煙者では疾患に対する感受性に影響を与える。ミクロソームのエポキシド-ヒドロラーゼ,ビタミンD結合蛋白,IL-1β,およびIL-1受容体拮抗質の各遺伝子の多型性は全て,特定集団において1秒量(FEV1)の急速な低下と関連している。

遺伝的に感受性のある人では,吸入暴露によって気道および肺胞に炎症性反応が引き起こされ,疾患へと進む。その過程にはプロテアーゼ活性の増大と抗プロテアーゼ活性の減少が介在すると考えられている(慢性閉塞性肺疾患(COPD): α1アンチトリプシン欠損症を参照 )。好中球エラスターゼ,マトリックスメタロプロテアーゼ,およびカテプシンなどの肺プロテアーゼは,正常な組織修復過程において弾力素や結合組織を分解する。その活性は,α1アンチトリプシン,気道上皮由来の分泌型白血球プロティナーゼ阻害体,特異的エラスターゼ阻害体,マトリックスメタロプロテアーゼ組織阻害体などの抗プロテアーゼによりバランスがとられる。COPD患者では,炎症過程の一部として,活性化された好中球や他の炎症性細胞からプロテアーゼが放出される;その結果プロテアーゼ活性が抗プロテアーゼ活性に勝り,組織の破壊と粘液の過分泌が生じる。好中球およびマクロファージの活性化も,フリーラジカル,活性酸素陰イオン,過酸化水素の蓄積を招き,それが抗プロテアーゼを阻害して気管支収縮,粘膜浮腫,粘液過分泌を引き起こす。好中球誘発性の酸化傷害,線維性促進神経ペプチド(例,ボンベシン)の放出,血管内皮成長因子の濃度低下も,感染 と同じく,関与していることがある。

バクテリア(特にインフルエンザ菌)が,症状のあるCOPD患者の約30%に,通常無菌状態にある下気道に定着する。さらに重症化した患者(例,過去に入院した人)では,緑膿菌が多い。一部の専門家は,喫煙と気流閉塞が下気道の粘液クリアランスに障害を招き,それが感染の素因になると考えている。繰り返す感染が炎症による負担を増大し,それが疾患の進行を速める。しかしながら,抗生物質の長期使用が,感受性のある喫煙者においてCOPDの進行を遅くするという証拠はない。

COPDの主な病態生理学的特徴は,気腫により引き起こされる気流制限,および/または粘液過分泌,粘液塞栓,および/または気管支痙攣により引き起こされる気流閉塞である。気道抵抗の増大は,肺の過膨張と同様,呼吸仕事量を増大させる。呼吸仕事量の増大は,低酸素症および高炭酸ガス血症を伴った肺胞の低換気を招く;しかし,低酸素症は,換気/血流(V/Q)不均衡によっても引き起こされる。疾患が進行した患者の一部では,慢性の低酸素血症や高炭酸ガス血症が生じる。慢性低酸素血症は肺血管の緊張を高め,びまん性であれば,肺高血圧および肺性心を引き起こす。O2を投与すると,一部の患者では低酸素性換気ドライブが減少して高炭酸ガス血症が悪化し,肺胞性低換気に至る。

組織学的変化には,細気管支周囲の炎症浸潤,気管支平滑筋肥大,肺胞の接着がなくなることによる気腔の変形,および肺胞中隔の破壊がある。拡大した肺胞腔は時々,癒合してブラになるが,ブラとは,直径1cm以上の気腔と定義される。ブラは完全に空か,または局所的に重度の肺気腫領域では肺組織の断片がブラ内を浮遊することもある;ときにブラは一側の胸郭全体を占める。

症状と徴候

COPDは数年かけて発症および進行する。タバコを20年間20本/日以上吸っていた40歳代および50歳代の患者では,通常,湿性咳が最初の徴候である。やがて進行性,持続性,労作性の呼吸困難,または呼吸器感染で増悪する呼吸困難が,患者が50歳後半に達する頃までに出現する。症状は,喫煙を継続し,生涯におけるタバコへの暴露が多い人では,一般に進行が速い。起床時の頭痛は,さらに進行した疾患で生じ,夜間の高炭酸ガス血症または低酸素血症を示唆する。

急性増悪はCOPDの経過の中に散発的に起こり,予兆は症状の重症化である。増悪の具体的な原因を特定することはほとんどの場合不可能であるが,増悪はしばしばウイルス性の上気道感染や急性の細菌性気管支炎が原因となる。COPDが進行すると,急性増悪はより頻回となる傾向があり,平均して約3エピソード/年となる。急性増悪が起きる患者では,増悪再燃の可能性がはるかに高くなる。

徴候には,喘鳴,心音および肺音の減弱として現れる肺の過膨張,および胸郭の前後直径の増大(樽状胸)がある。進行した肺気腫患者は,体重が減少し,活動低下による筋肉の萎縮;低酸素症;腫瘍壊死因子(TNF)-α など,全身性炎症メディエーターの放出;代謝速度の亢進を経験する。進行疾患の徴候には,口すぼめ呼吸,下部肋間腔の奇異吸気(フーヴァー徴候)を伴った補助筋の使用,およびチアノーゼがある。肺性心の徴候には,頸部の静脈拡張;肺動脈成分の亢進を伴う第2心音の分裂;三尖弁閉鎖不全の雑音;および末梢浮腫がある。COPDでは肺が過膨張しているため,右室の外側への拡大はまれである。

自然気胸もブラの破裂によってよく起こり,肺の状態が突然悪化したCOPD患者では疑われる。

COPDと類似する気腫および/または気流制限の要素をもった全身性障害には,HIV感染,サルコイドーシス,シェーグレン症候群,閉塞性細気管支炎,リンパ管平滑筋肉腫症,好酸球性肉芽腫などがある。

診断

診断は病歴,身体診察,胸部画像で疑われ,肺機能検査で確認される。鑑別診断には,喘息,心不全,気管支拡張症がある。COPDと喘息はときに容易に混同される。喘息(喘息も参照 )とCOPDの鑑別は,病歴,および肺機能検査で気流閉塞に可逆性があるかに基づいて行う。

図 1

喫煙状況が加齢によるFEV1低下に与える影響。


なぜ朝食用シリアルは、ビタミンの偉大な源であるされている

FEV1は加齢により低下するが,喫煙の影響に感受性のある喫煙者では,低下はより急激であり,したがってCOPD発症の可能性はより高い。

喫煙をやめると低下速度は変化し,障害や死亡が起きる年齢が遅くなる。FEV1 = 1秒量。

Data from Fletcher C, Peto R: The natural history of chronic airflow obstruction. British Medical Journal 1:1645–1648, 1977.

肺機能検査: COPDが疑われる患者には,気道閉塞の確認と,その重症度と可逆性を定量化するために肺機能検査を実施すべきである(肺機能検査を参照 )。肺機能検査は,疾患の進行を観察し,治療に対する反応のモニタリングにも有用である。主な診断的検査は,最大吸気後,最初の1秒間で努力呼出した空気の量であるFEV1;最大努力によって呼出された空気の総量である努力肺活量(FVC);最大努力呼気および吸気の間の気流と空気量を同時に肺活量測定で記録するフローボリューム曲線である。

FEV1,FVC,およびFEV1/FVCの比の低下は,気道閉塞を明確に示す。フローボリューム曲線は,呼気曲線において凹形のパターンを示す(肺機能検査: フローボリュームループ。を参照 図 3: )。FEV1は,およそ30歳から減少しはじめ,非喫煙者ではそれほど急激ではなく1年に25〜30mLの減少であるが,それに比べ,喫煙者では最大で1年に60mL減少する(慢性閉塞性肺疾患(COPD): 喫煙状況が加齢によるFEV1低下に与える影響。図 1: を参照)。中年の喫煙者で,既にFEV1が少ない人は,その後,さらに急速に減少していく。FEV1が約1L以下に減少すると,患者は日常生活の活動で呼吸困難を生じる;FEV1が約0.8L以下に減ると,低酸素血症,高炭酸ガス血症,肺性心のリスクがある。FEV1およびFVCは診察室での肺活量測定で簡単に測定でき,症状や死亡と相関があるため,疾患の重症度を明らかにできる(慢性閉塞性肺疾患(COPD): COPDの重症度と治療表 1: を参照)。正常の基準値は患者の年齢,性別,および身長により決まる。

表 1

COPDの重症度と治療

病期

特徴

推奨される治療法

追加の治療法

全症例

 

リスク要因の回避

インフルエンザのワクチン接種

 

0:リスクあり

慢性症状(咳,喀痰)

リスク要因に暴露

肺活量測定は正常

   

Ⅰ:軽症のCOPD

FEV1/FVCは70%未満

FEV1は予測値の80%以上

症状を伴うまたは伴わない

短時間作用型気管支拡張薬を必要な場合に

 

Ⅱ:中等症のCOPD

ⅡA

FEV1/FVCは70%未満

FEV1は予測値の50%以上80%未満

症状を伴うまたは伴わない

1つまたはそれ以上の気管支拡張薬を用いた定期的な治療

リハビリテーション

 
 

ⅡB

FEV1/FVCは70%未満

FEV1は予測値の30%以上50%未満

症状を伴うまたは伴わない

1つまたはそれ以上の気管支拡張薬を用いた定期的な治療

リハビリテーション

増悪再発には吸入コルチコステロイド

Ⅲ:重症のCOPD

FEV1/FVCは70%未満

FEV1は予測値の30%未満,または呼吸不全ないし右室不全がある

1つまたはそれ以上の気管支拡張薬を用いた定期的な治療

増悪再発に吸入コルチコステロイド

合併症の治療

リハビリテーション

呼吸不全があれば長期の酸素療法

外科的治療を考慮する

 

FEV1= 1秒量;FVC =努力肺活量。

Modified from Pauwels RA, Buist AS, Calverley PM, Jenkins CR, Hurd SS. Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of chronic obstructive pulmonary disease. NHLBI/WHO Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD) Workshop summary. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 163:1256-1276, 2001.

追加の肺機能検査は,肺容量減少術の前など,特定の状況でのみ必要である(慢性閉塞性肺疾患(COPD): 手術を参照 )。 検査による他の異常所見としては,全肺気量,機能的残気量,残気量の増加(これらの測定値は拘束性肺疾患では減少するのでCOPDとの鑑別に役立つ);肺活量の低下;1回呼吸法による一酸化炭素拡散能(DLco)の低下などがある。DLcoの低下は非特異的で,間質性肺疾患など,肺血管床を侵す他の障害でも低下するが,喘息ではDLcoが正常または上昇するので,COPDとの鑑別に役立つ。

画像検査: 胸部X線は,診断的ではないが,特徴的な所見が得られる。気腫による変化には,肺の過膨張などがあり,平坦化した横隔膜,立位心,肺門血管の急速な狭小化(前後像),および胸骨後含気腔の拡大として現れる。過膨張による横隔膜の平坦化では,側面像で胸骨と横隔膜前方のなす角度が,正常値の45°から90° 以上に広がる。ブラ―1cm以上の放射線透過像が,弓状の毛髪影に囲まれている―は,局所的には重症な疾患であることを反映している。肺底部に優位に認められる気腫性変化は,α1アンチトリプシン欠損症を示唆する(慢性閉塞性肺疾患: α1アンチトリプシン欠損症を参照)。肺は正常のように見えるか,または肺実質の喪失に伴う透亮度の増加がある。慢性閉塞性気管支炎の患者の胸部X線は,正常か,両側肺底部の気管支血管影が増加している。

肺門の突出は,肺高血圧にみられる中心肺動脈の拡大を示唆する。肺性心にみられる右室拡張は,肺の過膨張により覆い隠されることもあるし,心陰影が胸骨後腔に侵入しているように見えることもあるし,過去の胸部X線に比べて心臓影が横に広がることもある。

CTスキャンは,胸部X線での肺炎,塵肺,肺癌などの併存または合併疾患を示唆する異常を明確にできることもある。CTは気腫の程度と分布の評価に有用で,それは視覚による点数化,または肺密度分布の解析によって推定する。これらのパラメーターは,肺容量減少術の準備にも有用である。

補助検査: α1アンチトリプシン濃度の測定は,症状がある50歳未満のCOPD患者,およびCOPDがあるどの年齢の非喫煙患者においても,α1アンチトリプシン欠損症(慢性閉塞性肺疾患(COPD): α1アンチトリプシン欠損症を参照 )の検出のために行うべきである。その他のα1アンチトリプシン欠損症の指標には,若年性COPDまたは小児肝疾患の家族歴,気腫の下葉分布,抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性の血管炎を伴うCOPDがある。α1アンチトリプシンが低濃度であれば,表現型検査で確認すべきである。

心電図は,心臓が原因の呼吸困難を除外するためにしばしば実施されるが,進行した気腫の患者においては,典型的には肺過膨張により引き起こされる,立位心に伴った幅が広い低QRS波,および右心房拡大により引き起こされるP波の上昇またはP軸右偏移を示す。右室肥大の所見には,V1誘導でRまたはR波がS波と同じ大きさか,それより大きい;V6誘導でR波がS波より小さい;および/または右脚ブロックを伴わない110°を超える右軸偏位,などがある。多源性心房頻拍は,COPDに随伴しうる不整脈であるが,多形P波およびPR間隔の変動を伴った頻拍性不整脈として現れる。

心エコー検査は,右室機能および肺高血圧の評価にときに有用であるが,COPDの患者では技術的に難しい。左室疾患または心臓弁膜症の併存が疑われる場合に,最もよく利用される。


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CBCはCOPDの評価には診断的価値はほとんどないが,慢性低酸素血症を反映して赤血病(Hctが48%を超える)を示すことがある。

増悪の評価: 呼吸仕事量の増大,傾眠,オキシメトリーでO2飽和度の低下を示す急性増悪患者は,低酸素血症および高炭酸ガス血症の定量化にABG検査を行うべきである。高炭酸ガス血症は低酸素血症と共存しうる。そうした患者では,低酸素血症がしばしば高炭酸ガス血症より大きな呼吸刺激となっている(それが普通である)ので,O2 療法は,低酸素性換気ドライブ力を弱めて低換気を悪化させ,高炭酸ガス血症を悪化させることもある。

呼吸性酸血症の症例においては,動脈血O2分圧(PaO2)が50mmHg未満または動脈血CO2分圧(PaCO2)が50mmHgを超える所見は,急性呼吸不全を示す所見である(呼吸不全および機械的人工換気を参照 )。しかしながら,COPDの一部の患者は,そのようなレベルで長く生存する。

胸部X線はしばしば肺炎または気胸の確認に撮影される。まれに,全身投与コルチコステロイドの長期投与患者では,浸潤影がアスペルギルス肺炎でありうる。.

黄色または緑色の喀痰は,喀痰性好中球の信頼できる指標で,細菌のコロニー化または感染を示唆する。グラム染色では,通常好中球に微生物が混在し,それはグラム陽性双球菌(肺炎球菌)および/またはグラム陰性桿菌(インフルエンザ菌)であることが多い。その他の口腔咽頭常在菌叢,例えばモラクセラブランハメラカタラーリスも,ときに増悪の原因となる。入院患者では,グラム染色および培養により,耐性グラム陰性菌(例,緑膿菌)が,またはまれに,ブドウ球菌によるグラム陽性菌感染が示されることもある。

予後

気道閉塞の重症度からCOPD患者の生存率が予測できる。FEV1が予測値の50%未満の患者の死亡率は,一般人よりわずかに高い。FEV1が0.75〜1.25Lであれば,5年生存率は約40〜60%;0.75L未満であれば,約30〜40%である。心疾患,低体重,安静時頻脈,高炭酸ガス血症,および低酸素血症は,生存率を低下させるが,気管支拡張薬に対する有意な反応は,生存率向上と関連する。入院を必要とする急性増悪患者における死亡の危険因子は,高齢,高いPaco2,および維持療法のための経口コルチコステロイドの使用である。

COPDにおける死亡は,喫煙をやめた人では基礎疾患の進行よりも,併発疾患の結果であることがしばしばある。死亡は一般に,急性呼吸不全,肺炎,肺癌,心疾患,または肺塞栓などによる。

安定期COPDの治療

長期で重症のCOPDの一般的な合併症である肺性心の治療については,心臓腫瘍を参照 で考察されている。

慢性安定期COPDの治療目的は,薬物療法およびO2療法,禁煙,運動,栄養向上,肺リハビリテーションによる,増悪の予防と肺および身体の機能の長期的改善である。COPDの外科的治療は,選択された患者に対して適応となる。COPDの管理には,慢性安定期と増悪時の両方の治療が含まれる。

薬物療法: 推奨される薬物療法は慢性閉塞性肺疾患(COPD): COPDの重症度と治療表 1: に要約されている。 気管支拡張薬がCOPDの管理の中心となる;薬物には吸入β作動薬および抗コリン薬がある。症状のあるCOPD患者には誰でも,この2つのうちの1つまたは両方の薬物群の薬物を投薬すべきで,双方とも同等の効果がある。初期治療に,短時間作用型β作動薬,長時間作用型β作動薬,抗コリン薬(より大きな気管支拡張効果がある),またはβ作動薬と抗コリン薬の併用療法のどれを選択するかは,しばしば患者の好みや症状に,コストや利便性を考え合わせて決める問題である。気管支拡張薬の定期的使用が肺機能の悪化を遅らせるとの証明はないが,気管支拡張薬は症状を速やかに緩和して肺機能や運動能力を高める。

慢性安定期COPDの治療には,ネブライザーによる在宅治療より定量噴霧吸入器またはドライパウダー吸入器による投薬が選択される;在宅でのネブライザーは,洗浄や乾燥が不完全なために汚染されやすい。患者には,機能的残気量まで呼出し,エアロゾルをゆっくり全肺気量値まで吸入し,3〜4秒その吸入を保った後,呼出するように教育すべきである。スペーサーは,末梢気道まで薬物が最適に供給されるのを助け,吸入器の作動と吸入を協調させる必要性を減らす。一部のスペーサーは,患者の吸入の仕方が急速過ぎると,警告を発するようになっている。

β作動薬は気管支平滑筋を弛緩させ,粘膜線毛クリアランスを増大させる。アルブテロールのエアロゾルを定量噴霧吸入器により2パフ(100μg/パフ),必要に応じて1日4〜6回の吸入が低コストで,通常の選択薬である;定期的に使用しても,必要に応じた使用より効果があるわけではなく,有害作用が増える原因となる。夜間症状のある患者,および頻回投与が面倒な患者では,長時間作用型β作動薬が選択される;選択肢には,粉末サルメテロールを1パフ(50μg),1日2回の吸入;または粉末フォルモテロール(12μg)を1日2回の吸入,がある。剤形のドライパウダーは,定量噴霧吸入器との協調がうまくできない患者には,より有効である。長時間作用薬を必要に応じて,または1日3回以上使用すると,不整脈のリスクが増大するため,患者に短時間作用型と長時間作用型の薬物の違いについて教育すべきである。有害作用は,どのβ作動薬を使用しても一般に起こり,振戦,不安,頻脈,軽度の低カリウム血症などがある。

抗コリン薬は,ムスカリン性受容体(M1,M2,およびM3)の競合的阻害により気管支平滑筋を弛緩させる。イプラトロピウムは,低コストと入手し易さのために最も一般的に使用されている;用量は2〜4パフを4〜6時間毎である。イプラトロピウムは作用開始が遅いので(30分以内;ピーク効果は1〜2時間後),β2作動薬がしばしば併用薬として1つの吸入器の中に一緒に,または必要に応じたレスキュー薬として別々に,処方される。長時間4半期作用型の抗コリン薬であるチオトロピウムは,M1およびM3選択性であり,そのためイプラトロピウムより有効でありうる;なぜならM2受容体の遮断(イプラトロピウムで起こる)が気管支の拡張を限定的にするからである。投与量は18μgを1日1回である。しかしながら,チオトロピウムは世界のどこででも入手できるわけではなく,またその正確な役割が解明されるまでには,さらに研究が必要である。全ての抗コリン薬の有害作用は,散瞳,目のかすみ,口渇である。

吸入コルチコステロイドは,気道の炎症を抑制し,β受容体のダウンレギュレーションを回復し,ロイコトリエンやサイトカインの産生を抑制する。それは喫煙を続けるCOPD患者の肺機能低下の経過を変えることはないが,一部の患者では短期的には肺機能を改善し,気管支拡張薬の効果を増強し,COPDの増悪の頻度を減少させうる。用量は薬物により異なる;例えば,フルチカゾン500〜1000μg/日,ベクロメタゾン400〜2000μg/日がある。吸入コルチコステロイドの高齢者における長期的リスクは証明されていないが,おそらく骨粗鬆症および白内障形成が含まれるであろう。したがって長期使用者は,定期的に眼科と骨密度計測のスクリーニングを受けるべきで,カルシウム,ビタミンD,およびビスホスフォネートの薬剤が,適応となれば処方されるべきである。

長時間作用型β作動薬(例,サルメテロール)と吸入コルチコステロイド(例,フルチカゾン)の併用は,慢性安定期COPDの治療においては,いずれか一方の単独使用より効果的である。

経口または全身投与コルチコステロイドは,慢性安定期COPDの治療に用いられるが,患者の10〜20%にしか有効ではないようで,長期的なリスクのほうが有効性に勝ることもある。経口コルチコステロイドと吸入コルチコステロイドとの間の正式な比較研究は行われていない。経口による投与は,プレドニゾン30mgを1日1回から開始すべきで,治療に対する反応を肺活量測定によりモニターすべきである。もしFEV1が20%以上改善したならば,用量をプレドニゾン相当で週5mgの割合で,改善が維持できる最低量まで減らすべきである。漸減中に増悪が起きた場合,吸入コルチコステロイドが有用であるが,再開には用量を増やしたほうが,症状はより急速に改善し,FEV1が改善する可能性が高い。これに反し,もしFEV1 の初期改善が20%未満であれば,コルチコステロイドは急速に漸減させて中止すべきである。隔日投与は,そうすることで日々の改善を維持したまま,有害作用が軽減されるならば,1つの選択肢である。

テオフィリンは,COPDの慢性安定期および急性増悪の治療において,現在ではあまり役割を果たしていないが,それは,より安全で有効性の高い薬物が利用できるからである。テオフィリンは平滑筋の攣縮を減少させ,粘膜線毛のクリアランスを促進し,右室機能を改善し,肺血管抵抗や動脈圧を低下させる。その作用機序はあまり理解されてないが,β2作動薬や抗コリン薬とは異なるようである。横隔膜機能や運動中の呼吸困難の改善効果には異論がある。低用量テオフィリン(300〜400mg/日)は,抗炎症作用があり,吸入コルチコステロイドの効果を増強する。


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テオフィリンは,吸入薬に十分に反応しない患者でテオフィリンの試験的使用で症状に効果が見られた患者に用いることができる。血清濃度のモニターは,患者が薬物に反応しない場合,毒性症状が現れた場合,または服薬遵守が疑われる場合以外は必要ない;徐放性経口テオフィリン製剤は,投与回数が少なくて済み,服薬遵守を高める。有害作用はよくみられ,不眠,胃腸の不調などが,血中濃度が低いときにさえもみられる。上室性不整脈,心室不整脈,および発作など,より重篤な有害作用が血中濃度20mg/L以上で起こりやすい。テオフィリンの肝代謝は極めて多様で,遺伝的要因,年齢,喫煙,肝機能不全,およびマクロライド系やフルオロキノロン系の抗生物質や鎮静作用の少ないヒスタミン2遮断薬など一部� ��薬物により影響される。

ホスホジエステラーゼ-4拮抗薬および抗酸化物質は,COPDの治療における抗炎症作用について研究が進められている。

O2療法: 長期のO2療法は,Pao2が慢性的に55mmHg未満のCOPD患者に,延命効果がある。24時間持続投与は,12時間の夜間投与計画よりも効果がある。O2療法は,ヘマトクリットを正常な水準に回復させる;神経心理学的因子を,おそらく睡眠の促進により,適度に改善する;肺の血行動態異常を改善する。O2療法はまた,多くの患者で運動耐容能を高める。

進行したCOPD患者で,長期O2療法に対する基準を満たさない( 慢性閉塞性肺疾患(COPD): COPDにおける長期O2療法の適応表 2: )が,臨床評価で日中に低酸素血症がなく肺高血圧を示唆する者には,睡眠試験が考慮されるべきである。睡眠試験で,O2飽和度が88%以下に低下する場合があるとき,夜間O2療法が処方される。そうした治療は肺高血圧の進行を予防するが,生存率への効果は分かっていない。

表 2

COPDにおける長期O2療法の適応

少なくとも30日間にわたり最適な医学的治療を受けている患者において,Pao2 55mmHgまたはSao2 88%*の場合†

肺性心または赤血球増多症(Hct > 55%)の患者が,Pao2 = 55〜59mmHgまたはSao2 89%*の場合

運動時または睡眠時に室内大気下でのPao2 55mmHgまたはSao2 88%の患者で,Pao2 60mmHgまたはSao2 90%*の場合に考慮されうる

Pao2= 動脈血O2分圧; Sao2= 動脈血O2飽和度。

*大気呼吸中の安静時に測定された動脈血O2濃度。

†急性呼吸器疾患から回復中の患者で上記の基準に該当する場合には,O2を投与し,30日経過後に室内大気下での再検査を行うべきである。

O2は鼻カニューレにより,PaO2が60mmHgを超える(SaO2が90%を超える)のに十分な流量(通常は安静時で3L/分以下)で投与される。O2は,電動式のO2濃縮器,液体O2装置,または圧縮ガスのシリンダーにより供給される。濃縮器は,活動性を制限するが,最も安価なため,家庭で大半の時間を過ごす患者に選択される。そのような患者は,電気が故障した場合のバックアップや携帯用に,小型のO2ボンベが必要である。

液体装置は,家庭の外で大半の時間を過ごす患者に選択される。液体O2のキャニスターは持ち運びが簡単で,圧縮ガスの携帯シリンダーより容量が大きい。大型の圧縮空気シリンダーはO2供給の最も高価な方法で,その他の酸素源が利用できない場合のみ,使用すべきである。全ての患者に,O2使用中に喫煙することの危険性を教えなければならない。

様々な装置により,患者のO2使用量が節約できるが,それはリザーバーシステムを使用するか,吸気中にのみO2を送るか,のいずれかによる。これらの装置は,連続供給装置と同じくらい効果的に低酸素血症を改善する。

商業用の航空機内では気圧が低いため,一部の患者は飛行中にO2補給が必要である。血中炭酸ガス分圧が正常で,海面レベルでのPao2が68mmHgを超えるCOPD患者は,一般に機内Pao2が50mmHgを超えるため,O2補給は必要ない。高炭酸ガス血症,高度な貧血(Hctが30未満),もしくは心疾患または脳血管疾患を併発している全てのCOPD患者は,長期フライト中はO2補給を行うべきであり,予約時にその旨を航空会社に通知する必要がある。患者は,自身のO2を携行し,使用することは許可されていない。航空会社は自社のO2システムを提供するが,ほとんどの会社は最低24時間前の通知,必要性を記載した医師の診断書,出発前のO2処方箋を求める。フェイスマスクしか用意していない航空会社もあるので,患者は自分の鼻カニューレを持参すべきである。目的都市でのO2装置の手配は,必要であれば前もって行っておき,供給者が空港で旅行者を出迎え られるようにすべきである。

禁煙: 禁煙(禁煙を参照 )は,極めて困難であるが極めて重要である;しかしながら,気道炎症の進行を遅らせるが完全に阻止することはない(慢性閉塞性肺疾患(COPD): 喫煙状況が加齢によるFEV1低下に与える影響。図 1: )。複数の戦略を同時に使うことが最も効果的である:禁煙日の設定,行動変容術,グループによる話し合い,ニコチン代替療法(チューイングガム,経皮パッチ,吸入器,菓子錠剤,鼻腔スプレー),ブプロピオン,および医師の激励などがある。禁煙率は,最も有効な介入法であるブプロピオンとニコチン代替薬を併用しても,1年目で約30%である。

予防接種: COPD患者は全て,毎年インフルエンザワクチンの接種を受けるべきである。患者がインフルエンザのワクチン接種を受けられないか,蔓延しているインフルエンザ株が毎年接種するワクチン製剤に含まれていなければ,地域でインフルエンザが発生している間は予防的投与(アマンタジン,リマンタジン,オセルタミビル,またはザナミビル)が適切である。肺炎球菌多糖類ワクチンも,COPDにおいて効果は証明されていないが,有害作用が小さいので,投与されるべきであろう。

身体活動 : 呼吸不全のための活動低下または長期入院の結果生じる骨格筋の運動能力低下は,段階的運動プログラムにより,改善されうる。呼吸筋に特化したトレーニングは,有酸素運動による全身的な身体調整ほど有用ではない。通常のトレーニングプログラムは,数分間のトレッドミル上でのゆっくりした歩行またはエルゴメーターでの無負荷の自転車運動から始める。運動時間と運動負荷は,患者が呼吸困難をうまく抑えて20〜30分続けて運動ができるようになるまで,4〜6週かけて徐々に増やしていく。極めて重症のCOPD患者は,一般に時速1.6〜3.2kmで30分間歩くための運動計画を達成できる。維持運動は,健康維持のために週3〜4回行うべきである。O2飽和度をモニターし,必要に応じてO2補給を行う。上肢のレジスタンストレー� ��ングによって,入浴,着替え,清掃などの日常作業が行いやすくなる。COPD患者には,日常生活の活動中のエネルギーの節約の仕方や,活動のペースの維持の仕方を教育すべきである。性行為の難しさについて話し合うべきで,性的満足を得るためのエネルギー節約のテクニックの使用について助言を与えるべきである。

栄養: COPD患者は,体重減少および栄養欠乏のリスクがあり,その理由には,呼吸による安静時エネルギー消費量が15〜25%増大する;代謝および熱産生が食後に大きく増加する(すなわち,食事による産熱効果),これはおそらく膨張した胃によって既に平坦化した横隔膜の下降が妨げられるため呼吸仕事量が増大するからと思われる;日常生活におけるエネルギー消費量の亢進;必要なカロリーに対する摂取量の減少;TNF-αなどの炎症性サイトカインの異化作用などがある。全身の筋力やO2の効率的な利用は損なわれている。栄養状態が悪い患者は予後が悪いので,栄養不良や筋萎縮を予防また改善するために,運動に関連する十分なカロリー摂取ができるバランスのとれた食事を勧めるのが賢明である。しかしながら,過剰な体重増加は避けるべきで,肥満患者は,より正常な肥満度指数になるよう努力すべきである。栄養補充のみの研究では,肺機能や運動能力の改善がみられたという結果は得られていない。COPDにおける,栄養不良の回復,および機能状態や予後の改善に対する蛋白同化ステロイド(例,MEGACE,オキサンドロロン),成長ホルモン補充,およびTNF拮抗薬の有用性は,はっきりしていない。


肺リハビリテーション: 肺リハビリテーションプログラムは,身体機能の改善に対する薬物療法の補助療法としての役割をもつ;多くの病院や医療機関は,複数の専門分野から成る公的なリハビリテーションプログラムを提供している。肺リハビリテーションには運動,教育,行動療法がある。治療は個別化して行われるべきである;患者と家族はCOPDおよび医学的な治療法について教育を受け,患者は可能な限り自己管理に責任をもつよう指導される。慎重に統合されたリハビリテーションプログラムは,重症COPD患者に改善に向けた現実味のある期待を与えながら,生理学的な制限に順応するのを助ける。

リハビリテーションの効果は,独立性を高め,生活の質や運動能力を向上させることである。下肢の力,持久力,最大O2消費量に,適度の増加がみられる。しかしながら,肺リハビリテーションでは,通常,肺機能が改善したり,寿命が延長したりすることはない。重症の疾患の患者は,効果を得るために最低3カ月のリハビリテーションが必要で,維持療法のプログラムも継続すべきである。

急性呼吸不全後に,人工呼吸器から離脱できない患者には,専門のプログラムが用意されている。人工呼吸器からの完全な解放が可能な患者もいる一方で,日中は人工呼吸器なしで過ごせる患者もいる。自宅で十分なサポートが得られる患者では,家族がトレーニングを受けて,人工呼吸器をつけて自宅に帰れる患者もいる。

手術: 重症COPDの治療の外科的な選択肢には,肺容量減少術と肺移植がある。

機能していない気腫領域を切除する肺容量減少術は,重症の気腫が主に肺上葉にあり,肺リハビリテーション後も運動能ベースラインが低い患者において,運動耐容能および2年後死亡率を改善する。他の患者は,術後に,症状の緩和と運動能の改善を経験することもあるが,死亡率は薬物療法と比較すると同等か,高くなることが示されている。この手技の長期的効果は分かっていない。改善は肺移植の場合より少ない。改善の機序は,肺の弾性の増強,および横隔膜の機能やV/Q関係の改善によると考えられている。手術による死亡率は約5%である。肺容量減少術の最もよい候補者は,FEV1が予測値の20〜40%,DLcoが予測値の20%を超え,運動能が大きく障害され,CT上で不均一な肺疾患が主に上葉にあり,Paco2が50mmHg未満,重度の肺高血圧および冠動脈疾患が存在しない患者である。

まれに,患者に極めて大きなブラがあり,機能している肺を圧迫する。これらの患者は,ブラの外科的切除で治療可能で,結果として,症状の軽減と肺機能の改善が得られる。一般に,切除が最も有効であるのは,一側胸郭の3分の1を超えるブラがあり,FEV1が予測正常値の約2分の1の患者である。肺機能の改善は,切除されたブラにより圧迫されていた正常または障害の軽い肺組織の量に関連する。経時的な胸部X線やCTは,患者の機能状態が,機能しうる肺のブラによる圧迫のためなのか,気腫の全体的な広がりのためなのかを判定する上で,最も有用である。著しいDLcoの低下(予測値の40%未満)は,気腫が広範囲であることを示し,外科的切除による治療効果がより少ないことを示唆する。

1989年以来,COPD患者では片肺移植術が両肺移植術に取って代わっている。移植が候補となるのは,60歳未満で,FEV1が予測値の25%未満の患者か,重症の肺高血圧の患者である。肺移植の目的は,生存期間の延長がほとんどないため,生活の質の改善にある。肺気腫に対する肺移植後の5年生存率は45〜60%である。生涯にわたる免疫抑制療法が必要となり,日和見感染のリスクが伴う。

COPDの急性増悪の治療

即時の目標は,十分な酸素化を確実にすること,気道閉塞を改善すること,基礎疾患を治療することである。

急性増悪の原因は通常不明だが,一部は細菌性またはウイルス性感染による。喫煙,刺激物の吸入暴露,高濃度の大気汚染も寄与する。軽症の増悪は,自宅で十分なサポートがある患者では,しばしば外来治療が可能である。虚弱な高齢患者,および併存症,呼吸器不全の病歴,またはABG測定値に急性の変化がある患者は,経過観察と治療のため入院となる。是正されない低酸素血症,急性の呼吸性アシドーシス,新たな不整脈の出現,または入院治療にもかかわらず呼吸機能が悪化するなど,生命を脅かす増悪のある患者,および管理に鎮静が必要な患者は,ICUに入室させ,呼吸状態を頻繁にモニターすべきである。

O2 : O2補給は,たとえ絶えず必要としなくとも,患者の大部分で必要となる。O2投与は,低酸素による呼吸ドライブを減弱させ,高炭酸ガス血症を悪化させる。投与から30日後に,室内気下のPaO2を再評価し,O2補給が患者にまだ必要かを判定すべきである。

換気補助: 非侵襲的陽圧換気(例,フェイスマスクによる圧サポートまたは二相性陽圧換気[呼吸不全および機械的人工換気: 従圧式換気を参照 ])は,完全な機械的人工換気の代替療法である。非侵襲的換気は,重症増悪の患者(呼吸停止の即時危険のない,血行動態が安定している患者で,pHが7.30未満と定義される)で,挿管の必要性を減らし,入院期間を短縮し,死亡率を低下させる。非侵襲的換気は,増悪がそれほど重症ではない患者には,有効でないようである。しかしながら,そのような患者でも,ABGが最初の薬物療法にもかかわらず悪化する患者や,完全な機械的人工換気がさし迫って必要にみえても,気道のコントロールおよび興奮に対する鎮静のいずれに対しても挿管が必要ない患者には,非侵襲的換気が適応となりうる。非侵襲的換気を用いても悪化すれば,侵襲的人工換気へ速やかに転換すべきである。

ABGレベルおよび精神状態の悪化,ならびに呼吸疲労の進行には,気管内挿管および機械的人工換気が適応となる。人工呼吸器の設定,管理方法,合併症については,呼吸不全および機械的人工換気を参照 で考察している。人工呼吸器依存の危険因子は,FEV1が0.5L未満,Pao2が50mmHg未満および/またはPaco2が60mmHg以上の状態から変化しないABG,重度の運動制限,栄養不良などである。したがって,挿管および機械的人工換気について,患者の希望を話し合い,記録しておくべきである(医事法的な問題: 事前指示書を参照 )。

患者に長期の挿管が必要となれば(例,2週間を超えて),快適性,コミュニケーション,食事を容易にするために気管切開術が適応となる。栄養面と心理面のサポート(肺の診断と治療に関する手技: 肺リハビリテーションを参照 )を含めた複数の専門分野を含む優れたリハビリテーションプログラムを行えば,機械的人工換気が長期間必要な患者の多くは,離脱に成功し,以前の機能レベルまで回復できる。

薬物療法: β作動薬,抗コリン薬,および/またはコルチコステロイドは,気道閉塞の改善を目的に,O2療法(O2の投与形態はどれでもかまわない)と同時に開始されるべきである。

β 作動薬は急性増悪に対する薬物療法の基本である。最も広く用いられる薬物はアルブテロールで,2.5mgをネブライザーにより,または2〜4吸入(100 μg/パフ)を定量噴霧吸入器により2〜6時間毎に投与する。定量噴霧吸入器を用いた吸入は,速やかに気管支を拡張する;ネブライザーが定量噴霧吸入器より有効であることを示すデータはない。

イプラトロピウムは最も一般的に使用される抗コリン薬で,COPDの急性増悪に効果があることが証明されており,定量噴霧吸入器を用いてβ作動薬と同時にまたは交互に投与すべきである。投与量は0.25〜0.5mgをネブライザーにより,または2〜4吸入(21 μg/パフ)を定量噴霧吸入器により4〜6時間毎に投与する。イプラトロピウムは一般に,β作動薬と同じような気管支拡張効果をもたらす。急性増悪の治療における長時間作用型抗コリン薬チオトロピウムの役割は,明らかにされていない。

コルチコステロイドは,軽度の増悪以外の全ての増悪に即座に開始すべきである。選択肢には,プレドニゾン(60mgを経口にて1日1回,7〜14日かけて漸減)およびメチルプレドニゾロン(60mgを静注にて1日1回,7〜14日かけて漸減)などがある。これらの薬物は急性の効果においては同等である;しかし,吸入コルチコステロイドは急性増悪の治療には役立たない。

メチルキサンチンは,かつてはCOPDの急性増悪の治療に必須と考えられていたが,もう使われていない。毒性が有効性を上回っていたのである。


膿性痰のある患者では,増悪には抗生物質が推奨される。一部の医師は経験的に,喀痰の色の変化,または非特異的胸部X線の異常に抗生物質を投与する。しかし,ルーチンの培養やグラム染色で,常在ではない細菌または耐性菌が疑われない限り,治療開始前には必要ない。7〜14日間投与の,トリメトプリム-スルファメトキサゾール(160mg/800mg,1日2回),アモキシシリン(250〜500mg,1日3回),テトラサイクリン(250mg,1日4回),およびドキシサイクリン(50〜100mg,1日2回)は,全て有効で安価な第1選択薬である。薬物の選択は,地域の細菌感受性パターンおよび患者病歴により決定されるべきである。ほとんどの場合,許容されるなら,治療は経口薬から始めるべきである。患者が重症であるか,臨床症状から感染菌が耐性であること� ��示唆されれば,さらに高価な第2選択薬が用いられる。これらの薬物には,アモキシシリン-クラブラン酸250〜500mg,1日3回;シプロフロキサシン,レボフロキサシン,ガチフロキサシンなどのフルオロキノロン系;セフロキシム,セファクロルなどの第2世代セファロスポリン系;アジスロマイシン,クラリスロマイシン,またはテリスロマイシンなどの広域スペクトルのマクロライド系,などがある。これらの薬物は,インフルエンザ菌およびM.カタラーリスβラクタマーゼ産生菌株に対し有効であるが,患者の大半では第1選択薬より有効であることは示されていない。患者は,喀痰が正常から膿性に変化すれば,さし迫った増悪の徴候であると判断し,10〜14日間コースの抗生物質療法を開始するように,教育されることもある。抗生物質による長期予防投与は,気管支拡張症または感染ブラなど,基礎的な肺構造に変化のある患者に限り,推奨される。

最終改訂月 2007年1月

最終更新月 2005年11月



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