Robert A. Wise, MD
慢性閉塞性肺疾患は,一部可逆的な気流閉塞で,毒素(しばしば,タバコの煙)に対する異常な炎症性反応が原因となる。非喫煙者においては,多くはないがα1アンチトリプシン欠損症,および様々な職業性暴露も原因となる。症状は湿性咳および呼吸困難で,数年かけて現れる;一般的な徴候は呼吸音の減少および喘鳴である。重症例では体重減少,気胸,右室不全,呼吸不全などを合併する。診断は病歴,身体診察,胸部X線,および肺機能検査に基づく。治療は気管支拡張薬,コルチコステロイド,また必要な場合にはO2を投与する。約50%の患者が最初に診断されてから10年以内に死亡する。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,慢性閉塞性気管支炎と肺気腫から成る。患者の多くは両方の特徴をもつ。
慢性閉塞性気管支炎 は,気流閉塞を伴った慢性の気管支炎である。慢性気管支炎(慢性粘液分泌亢進症候群とも呼ばれる)は,連続2年の間に湿性咳が少なくとも3カ月間認められた場合と定義される。慢性気管支炎は,肺活量測定により気流閉塞があることが判明すれば,慢性閉塞性気管支炎となる。慢性喘息性気管支炎は,類似した重複する病態で,喘息の病歴のある喫煙者における慢性の湿性咳,喘鳴,一部可逆的な気流閉塞によって特徴づけられる。一部の症例では,慢性閉塞性気管支炎と喘息性気管支炎の区別は不明瞭である。
肺気腫は,肺実質の破壊で,弾性収縮力の喪失,肺胞中隔の喪失および放射線状の気道牽引を招き,そのため気道虚脱の傾向が強まる。肺の過膨張,気流制限,エアトラッピングが続いて起こる。気腔が拡大し,やがてブラが出現することもある。
疫学
米国の2000年のCOPD罹患者は推定で2400万人であるが,そのうち診断されたのは1000万人にすぎない。同年,COPDは死亡原因の第4位であり,死亡者数は119,054人であった―比較として1980年の死亡者数は52,193人であった。1980年から2000年の間に,COPDの死亡率は64%上昇した(40.7/100,000から66.9/100,000へ)。
有病率,発生率,死亡率は年齢が高くなるとともに上昇する。有病率は男性が高いが,全死亡率は,男性も女性も同じようである。発生率と死亡率は一般に白人,ブルーカラー労働者,学校教育の年数が短い人で高いが,おそらくこれらの集団の喫煙率が高いためであろう。COPDは,α1アンチトリプシン(α1アンチプロテアーゼ阻害物質)欠損症とは関係がない場合でも,家族集積性があるようである(慢性閉塞性肺疾患(COPD): α1アンチトリプシン欠損症を参照 )。
COPDは,非工業国における喫煙の増加,感染症による死亡の減少,バイオマス燃料の広範囲の利用により,世界的に増加しつつある。COPDが原因で2000年には世界で推定274万人が死亡しており,2020年までには世界の5大疾病原因の1つになると予測されている。
病因と病態生理
喫煙が,ほとんどの国において第一の危険因子であるが,喫煙者の約15%しか臨床的に明らかなCOPDを発症しない;40pack-years(1日1箱40年を基準)またはそれ以上の暴露歴は,特に発症を予測させる。バイオマス燃料を室内での調理や暖房に燃やして出る煙は,発展途上国では重要な寄与要因である。既に気道反応性(メタコリン吸入に対する感受性亢進により定義される)のある喫煙者は,臨床的な喘息がなくても,COPDを発症するリスクは,反応性がない人より大きい。低体重,小児期の呼吸器疾患,受動喫煙による暴露,大気汚染および職業性塵(例,鉱物塵または綿塵)または化学物質(例,カドミウム)への暴露は,COPDのリスクを高めるが,喫煙に比べれば重要性は低い。
遺伝的要素も寄与する。最も明確な遺伝的障害は,α1アンチトリプシン欠損症で(慢性閉塞性肺疾患(COPD): α1アンチトリプシン欠損症を参照 ),非喫煙者では肺気腫の重要な原因であり,喫煙者では疾患に対する感受性に影響を与える。ミクロソームのエポキシド-ヒドロラーゼ,ビタミンD結合蛋白,IL-1β,およびIL-1受容体拮抗質の各遺伝子の多型性は全て,特定集団において1秒量(FEV1)の急速な低下と関連している。
遺伝的に感受性のある人では,吸入暴露によって気道および肺胞に炎症性反応が引き起こされ,疾患へと進む。その過程にはプロテアーゼ活性の増大と抗プロテアーゼ活性の減少が介在すると考えられている(慢性閉塞性肺疾患(COPD): α1アンチトリプシン欠損症を参照 )。好中球エラスターゼ,マトリックスメタロプロテアーゼ,およびカテプシンなどの肺プロテアーゼは,正常な組織修復過程において弾力素や結合組織を分解する。その活性は,α1アンチトリプシン,気道上皮由来の分泌型白血球プロティナーゼ阻害体,特異的エラスターゼ阻害体,マトリックスメタロプロテアーゼ組織阻害体などの抗プロテアーゼによりバランスがとられる。COPD患者では,炎症過程の一部として,活性化された好中球や他の炎症性細胞からプロテアーゼが放出される;その結果プロテアーゼ活性が抗プロテアーゼ活性に勝り,組織の破壊と粘液の過分泌が生じる。好中球およびマクロファージの活性化も,フリーラジカル,活性酸素陰イオン,過酸化水素の蓄積を招き,それが抗プロテアーゼを阻害して気管支収縮,粘膜浮腫,粘液過分泌を引き起こす。好中球誘発性の酸化傷害,線維性促進神経ペプチド(例,ボンベシン)の放出,血管内皮成長因子の濃度低下も,感染 と同じく,関与していることがある。
バクテリア(特にインフルエンザ菌)が,症状のあるCOPD患者の約30%に,通常無菌状態にある下気道に定着する。さらに重症化した患者(例,過去に入院した人)では,緑膿菌が多い。一部の専門家は,喫煙と気流閉塞が下気道の粘液クリアランスに障害を招き,それが感染の素因になると考えている。繰り返す感染が炎症による負担を増大し,それが疾患の進行を速める。しかしながら,抗生物質の長期使用が,感受性のある喫煙者においてCOPDの進行を遅くするという証拠はない。
COPDの主な病態生理学的特徴は,気腫により引き起こされる気流制限,および/または粘液過分泌,粘液塞栓,および/または気管支痙攣により引き起こされる気流閉塞である。気道抵抗の増大は,肺の過膨張と同様,呼吸仕事量を増大させる。呼吸仕事量の増大は,低酸素症および高炭酸ガス血症を伴った肺胞の低換気を招く;しかし,低酸素症は,換気/血流(V/Q)不均衡によっても引き起こされる。疾患が進行した患者の一部では,慢性の低酸素血症や高炭酸ガス血症が生じる。慢性低酸素血症は肺血管の緊張を高め,びまん性であれば,肺高血圧および肺性心を引き起こす。O2を投与すると,一部の患者では低酸素性換気ドライブが減少して高炭酸ガス血症が悪化し,肺胞性低換気に至る。
組織学的変化には,細気管支周囲の炎症浸潤,気管支平滑筋肥大,肺胞の接着がなくなることによる気腔の変形,および肺胞中隔の破壊がある。拡大した肺胞腔は時々,癒合してブラになるが,ブラとは,直径1cm以上の気腔と定義される。ブラは完全に空か,または局所的に重度の肺気腫領域では肺組織の断片がブラ内を浮遊することもある;ときにブラは一側の胸郭全体を占める。
症状と徴候
COPDは数年かけて発症および進行する。タバコを20年間20本/日以上吸っていた40歳代および50歳代の患者では,通常,湿性咳が最初の徴候である。やがて進行性,持続性,労作性の呼吸困難,または呼吸器感染で増悪する呼吸困難が,患者が50歳後半に達する頃までに出現する。症状は,喫煙を継続し,生涯におけるタバコへの暴露が多い人では,一般に進行が速い。起床時の頭痛は,さらに進行した疾患で生じ,夜間の高炭酸ガス血症または低酸素血症を示唆する。
急性増悪はCOPDの経過の中に散発的に起こり,予兆は症状の重症化である。増悪の具体的な原因を特定することはほとんどの場合不可能であるが,増悪はしばしばウイルス性の上気道感染や急性の細菌性気管支炎が原因となる。COPDが進行すると,急性増悪はより頻回となる傾向があり,平均して約3エピソード/年となる。急性増悪が起きる患者では,増悪再燃の可能性がはるかに高くなる。
徴候には,喘鳴,心音および肺音の減弱として現れる肺の過膨張,および胸郭の前後直径の増大(樽状胸)がある。進行した肺気腫患者は,体重が減少し,活動低下による筋肉の萎縮;低酸素症;腫瘍壊死因子(TNF)-α など,全身性炎症メディエーターの放出;代謝速度の亢進を経験する。進行疾患の徴候には,口すぼめ呼吸,下部肋間腔の奇異吸気(フーヴァー徴候)を伴った補助筋の使用,およびチアノーゼがある。肺性心の徴候には,頸部の静脈拡張;肺動脈成分の亢進を伴う第2心音の分裂;三尖弁閉鎖不全の雑音;および末梢浮腫がある。COPDでは肺が過膨張しているため,右室の外側への拡大はまれである。
自然気胸もブラの破裂によってよく起こり,肺の状態が突然悪化したCOPD患者では疑われる。
COPDと類似する気腫および/または気流制限の要素をもった全身性障害には,HIV感染,サルコイドーシス,シェーグレン症候群,閉塞性細気管支炎,リンパ管平滑筋肉腫症,好酸球性肉芽腫などがある。
診断
診断は病歴,身体診察,胸部画像で疑われ,肺機能検査で確認される。鑑別診断には,喘息,心不全,気管支拡張症がある。COPDと喘息はときに容易に混同される。喘息(喘息も参照 )とCOPDの鑑別は,病歴,および肺機能検査で気流閉塞に可逆性があるかに基づいて行う。
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